傷跡が紡ぐ記憶と祈り



小さな庭には、祖父母が大切に選んだ大きな灯篭があります。1995年1月17日阪神・淡路大震災が発生。神戸市では震度7を記録し、京都市内でも震度5の激しい揺れが観測されました。その衝撃により、この灯籠は倒れ、先端部分が破損してしまいました。当時私はまだ2歳で、その揺れの記憶はありません。けれど、家族から何度もあの日のことを聞かされてきました。どれほどの恐怖だったのか、どれほどの被害があったのかーーそれは、自分の記憶にはなくても、語り継がれる事で確かに心に刻まれています。本来であれば、完全に修復し新しいものに交換するのが一般的かもしれません。しかし、私たちはあえてこの傷跡を残すことにしました。それは、あの日の出来事を忘れず、当たり前の日常がどれほど尊いものであるかを心に刻むためです。
今この灯籠はライトアップされ、訪れるお客様を優しく迎えています。その光は、ただ庭を照らすだけでなく、過去の試練を乗り越えた証として、日々を大切に生きることの意味、そして今この瞬間の尊さをそっと語りかけています。
これから先、このような災害が再び起こらないことを心から願っています。しかし、もしも再び同じようなことが起きたとしても、私たちはその時を乗り越える力を灯籠の光のように灯し続けるでしょう。
風化させない思いを込めて、この灯籠は今日も静かに光り続けています。